二次創作小説

白い花の記憶

Act. 2

4.

 五日間にわたるイザークの武術大会は終了した。最終日にあたる今夜は、勝利者を祝う宴が催されていた。
「セタンタ!」
 ソファラの少年を人ごみの中にようやく探し当てたアイラは、手を振って彼を呼び止めた。
「よかった。やっと会えた」
「アイラ、入賞おめでとう」
「うん、ありがとう。お前のおかげだ」
「すごいな、準々決勝まで勝ち進むなんて」
「うん……そこで負けてしまったけれど」
 なかなかセタンタに声をかけられたのは、実はそのせいだった。十二歳にして入賞を果たしたイザークの王女は、宴の始まりとともに祝福する人々に囲まれ、宴もたけなわになる今まで、自由に行動することができなかったのだ。
「流星剣……身につけたんだな」
「おかげさまで。かなりぎりぎりになってしまったけれど、どうにか父上との約束の期限に間に合わせられた」
「もう、おれでは勝てないかもな」
 言葉とは裏腹に、セタンタは嬉しそうに笑っている。
「まさか! お前の強さはそんなに簡単に覆せるものじゃないぞ。
 それにしても……強い奴っているものだな。
 兄上に敵わないのはわかっていたけど、リボーのガルザス、あいつもすごく強かった」
 アイラは自分を破り決勝まで勝ち進んだ少年の名を挙げた。
「結局は兄上が優勝したけれど、決勝はすごくいい試合だったよな。
 わたしもあんなふうに戦えるようになりたい」
「お前の戦いぶりもすごかった」
「そうか?」
「ああ」
「お前にそう言ってもらえると、嬉しい」
 アイラは屈託なく微笑んだ。
「……だけど、本当はお前と戦ってみたかったな。皆の見ている、晴れの舞台で」
「そうだな……」
 セタンタの言葉は少なく、短い。
 相変わらず愛想のない奴だな、と思いながらも、今日のセタンタは何か柔らかな雰囲気で満たされているようにアイラは感じた。
「なあ、セタンタ。今は無理かもしれないけど、いつかきっと武術大会で手合わせしよう。
 わたしもお前も大人になって、誰にも遠慮しなくてよくなって、ただ力を試すことができるようになったら、きっと」
「そうだな、いつかきっと」
 そう言って、セタンタは屈託なく笑った。

 だが、その約束が果たされることはついになかった。
 この三年後、ソファラのコナル卿が病死する。
 嫡子のブラァンがソファラを継ぐのと前後して、コナル卿の金髪の庶子はいずこかへと出奔した。
 アイラとセタンタが親しく言葉を交わしたのは、結局あの武術大会の時だけだった。

 以後、セタンタの行方は知れぬままである。

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written by S.Kirihara
last update: 2014/09/12
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