二次創作小説

騎士と姫君

〜 the Knight and the Lady 〜

 春の午後の日差しは、影に閉ざされた回廊にも入り込み、床の上に光と影がアラベスク模様を織りなしていた。
 ラケシスは回廊の柱に寄りかかり、アルスターの館の中庭を、見るともなく眺めていた。
 うららかな日差しの中で、子どもたちが遊んでいた。レンスターの王子リーフと、彼女自身の娘ナンナ。今はなき王国を継ぐ者として生を享けた、幼い亡国の王族たち。
「まって」
 伸びやかに走る少年と、その背を追う金の髪の少女。少女はいかにも一生懸命だが、前を行く少年との距離はいっこうに縮まる様子を見せない。
「まって、リーフさま……あっ」
 小石にでもつまずいたのだろう。少女は勢いよく転んだ。
「……ナンナ?」
 異変を察知した少年は、驚いたように振り返った。
 少女はゆっくりと起き上がった。そして自分を覗き込んでいる少年の顔をびっくりしたように眺め返すと、いきなり声をあげて泣きはじめた。
「ナンナ……痛かったのかい、ナンナ」
 おろおろしながら、少年は少女に呼びかける。
「リーフさま……リーフさまぁ……」
 少女はただただしゃくりあげている。
「リーフ様っ!」
 ラケシスが駆け寄ろうとするよりも先に、ひとりの娘が庭の奥から走り出てきた。
「だめじゃないですか。ナンナ様を泣かせちゃ」
 娘は青いお下げ髪を揺すりながら、めいっぱい怖い顔をして、少年を睨みつける。
「違うよ、セルフィナ。僕はなにも……」
 娘の剣幕に恐れをなしたのか、少年はもごもごと言い訳した。
「じゃあなんでナンナ様が泣いているんです?」
「それはナンナが転んだからで……」
 おどおどと言いつくろおうとする少年を、娘はさらに詰問した。
「ただ転んだだけですか? あなたの名前を呼んでいたように思いましたけれど?」
「それは……」
 答えに詰まる少年に、娘はしかつめらしく言い聞かせる。
「リーフ様、自分より小さくて弱いものには、いつも親切でなければ。それが騎士として、いえ人間として“ただしい”ことだとわたしは思います。たしかにナンナ様はただ転んだだけなのかもしれない。でも、あなたの名を呼んでいらした。あなたに何かおっしゃりたいことがあったのではないですか。違います?」
「……違わない、たぶん」
 少年は顔を脇に向け、むっつりした調子で答えた。
「たぶん?」
 娘はやや腹立たしげな調子で反駁した。
「……たぶん、じゃなくて……」
 少年は困ったような顔で娘を見上げ、言葉を詰まらせる。
「……ちがうの、セルフィナ。リーフさまはわるくないの」
 突然、泣いていたはずの少女が、言葉を発した。
「リーフさまはわるくないの。わたしがかってに泣いてしまっただけ」
 少女は娘の顔を見上げ、涙もぬぐわずに懸命に訴えかける。
「だからリーフさまを……しからないで」
 少女の必死の嘆願に、娘は困ったような顔をする。
「そうはおっしゃっても……」
「いいのよ、セルフィナ」
 このとき初めて、ラケシスは物陰から歩み出た。
「ラケシス様?」
「おかあさま……?」
 三人はぽかんとした表情で、突然姿をあらわしたラケシスを見つめた。
「ナンナはリーフ様を追いかけていたのよ。いつものように。そして転んだ。それだけのことなのだから」
 ラケシスは少女の横にしゃがみながら、おだやかに話しかけた。
「すりむいてしまったのね。痛かったでしょう。ライブは必要?」
 母の問いかけに、少女は安心したように応えた。
「……ううん、だいじょうぶ。もういたくないから」
「他には痛いところはない? ……ちゃんと立てる?」
「だいじょうぶ」
 そう言って少女はそろそろと立ち上がり、服にかかった砂を払い落とした。
「そう……よかったわ、ナンナ」
 少女の頬に残る涙の筋を指先で拭い取ると、ラケシスは少年に目を転じた。
「リーフ様……」
「……ごめんなさい」
 少年は素直に頭を垂れた。
「ナンナが『まって』って言っていたのに、ぼくは待たなかった。だから……ごめんなさい」
「そうですね……何かに夢中になっているときに、待つことは難しいですものね。
 でも……そんなときでも他の人の声を聴くことはとても大切なのよ、リーフ様」
「うん……」
「ナンナはまだ小さいから、リーフ様にとっては面倒くさいかもしれないけれど、でも、この子に気を配ってくれたら、私はとても嬉しいわ」
「うん……ラケシスさま」
「さあ、いいから、もう遊んでらっしゃい」
「うん!」
 少年は俄然元気を取り戻すと、勢いよく立ち上がり、少女に呼びかけた。
「行こう、ナンナ」
「うん!」
 少年の呼びかけに、少女は顔一面に笑顔を浮かべ、応える。
 嬉しそうに走り去る子どもたちをセルフィナとラケシスは見送った。


「セルフィナ、少しリーフ様に厳しいのではなくて?」
 子どもたちの姿を目で追いながら、ラケシスはぽつりとつぶやいた。
「ラケシス様……?」
「まだ小さな男の子だわ。遊びたいさかりだし、他の子どもの気持ちをいつも汲み取れというのは、無茶な話だわ」
「ですがリーフ様は王になるべき方ですから……」
 しかつめらしく、セルフィナが応える。
「王になるべき方……」
 セルフィナの言葉を、ラケシスはゆっくりと反芻する。
「身勝手な王は、民にとっては迷惑な存在です。王たる者はやさしく、ただしく、他者の鑑たるべき人物でなければ」
「そうね……そのとおりだわ……」
(でも……)
 ラケシスは心の中でそっと反駁する。
(すぐれた王になることは、必ずしも本人のしあわせにはつながらないのかもしれない……)
 ラケシスの脳裏にはふたりの人物の姿が浮かび上がっていた。
 身勝手な王。おのれの野望と嫉妬心が抑えられず、衷心をもって仕える彼女の兄を死へと追いやり、ついには母国をも滅ぼした男。アグストリアのシャガール王。
 すぐれた王にして騎士。主家の王がその忠誠心に値する男ではないことを知りながら、友と戦わねばならないことを知りながら、なおも忠節を貫いた男。彼女の兄、ノディオンのエルトシャン王。
 エルトシャンはすぐれた人物だった。王として、騎士として、男として。
 妹として、いや、ひとりの女として、今でもラケシスはそう思っている。
 だが彼はあまりにも縛られていた。主君への忠誠に、アグストリアに、聖戦士の血脈に。血を吐く思いで勝ち目のない戦に身を投じ、友に剣を向け、しかしその代償に与えられたのは、暗愚の王による死の宣告。
 彼の人生がしあわせなものであったとは、ラケシスには思えない。その生きざまを“美しい”と思う一方で、どうしようもなく愚かで腹立たしいものだとも感じている。もっと自由に、自然に、人の情のおもむくままに生きる道は本当に存在していなかったのか。そう問いかけずにはいられないのだ。
「私は、リーフ様にしあわせになってもらいたい。
 王としてすぐれていることと、人として自由であること。どちらが本当のしあわせなのか……」
 ラケシスのつぶやきに、セルフィナが問い返してきた。
「王としてすぐれていることと、人として自由であることは、相反することなのでしょうか」
「わからないわ。私には……わからない……」
「よしんばそのふたつが相反するものであったとしても、民に愛されぬ王は不幸です」
 十四歳の少女は大人びた瞳できっぱりと言いきった。
「……確かに、そう。そのとおりだわ」
 ラケシスはうなずいた。
「それでも思ってしまうときがあるのよ。国を背負うことはあまりにも重い荷物だと。そんな重荷を振り捨てて、いつも誰かや何かのために生きるのではなく、自分自身のために生きることができたなら、それはとても自由なのではないかと」
「自由……ですか」
「昔、自由を追う人がいた。彼はいつも自分の心に忠実に生きていた。世間の風評や単純な損得では、けっして動かせない人だった。私は彼に惹かれたわ。彼のように生きられたら。そう思った。でも……」
「でも……?」
「私には無理だった。私はあまりにも縛られていた。ノディオンの名に。聖戦士の血に。そして……」
(私は兄さまと同じだ。矜持や名誉や責任に縛られ、自分の望みには背を向ける。そんな生き方を選んでしまった。
 あのまま彼とともに生きることができたら、私はしあわせだったのかもしれない。でも彼はいき、私は残った。後は追えなかった。子どもたちのために。残された光を守り抜くために。そしてレンスターに流れ着いて……)
 子どもたちの父親である男のことをラケシスは思い出す。自由騎士ベオウルフ。束縛を何よりも嫌った、自由な魂を持つ傭兵。
 彼とともにある時間は楽しかった。だが楽しいと同時に、非常に苦しく、傷つくものでもあった。彼は彼女の価値観では捉えきれない男だったから。
 彼女が至上の価値を置いていた騎士としての忠誠心や女性の貞操は、彼にとっては薄っぺらな束縛でしかなかった。雇い主を値踏みし、勝ち目があると見て取ればおのれの腕を売り、勝ち目がなければさっさと袂を分かつ。気に入った女と意気投合すれば、ためらうことなく床を共にし、一夜が過ぎ去れば、何の後腐れもなく忘れ去る。彼のそういった態度は、ラケシスにとっては、実は理解の範疇を超えるものだったのだ。特にラケシスと出会う前に、すでに深い仲になった女性が存在していたという事実には、深く傷つけられもした。
 それでも彼女は彼を愛していた。彼と馬を並べ、戦うことが喜びだった。ふたりの子どもを彼との間にもうけたことが、純粋に嬉しかった。まだ幼い息子の中に彼の面影が見え隠れすることを、手放しで歓迎した。
 だが、今、彼女の隣に彼はいない。そして……
(そして、このレンスターで、あの人に出会ってしまった……)
 いや、出会ったというのは正しくない。正しくは、「再会した」のであるから。


「ラケシス様」
 背後から呼びかける声がした。誰の声か、聞き違えるはずもなかった。彼こそ、たった今、ラケシスの思い描いていた人物に他ならないのだから。彼の声も姿も、すでにラケシスの中に深く刻み込まれているのだから。
 ラケシスはゆっくりと振り返る。
「……フィン?」
 回廊の暗がりの中に、青い髪を持つ長身の青年がたたずんでいた。青年はまぶしそうに目を眇め、ラケシスを見つめていた。
「こんなところにいらしたのですか。お探ししていました」
「私に何か……?」
 ラケシスは鼓動の高鳴りを押し隠し、平板な口調を心がけながら問いかける。
「いえ、用というほどのことではないのですが」
 青年は柔らかな表情を浮かべ、言った。
「ただ、姿をお見かけしないと、どうも気がかりで」
「……あの、わたし、もう向こうへ行きますね」
 セルフィナがおずおずと、しかしどこか面白がっているような表情を浮かべて申し出た。
「え……」
 ラケシスは困惑しながら、セルフィナを見やった。
「おふたりでゆっくりお話なさってくださいね。リーフ様たちは、わたしが見ていますし」
 じゃあ、と手を振って、セルフィナは軽い足取りで走り去っていった。
「セルフィナったら……」
 彼女が気を利かせたのだろうということは、よくわかっていた。だがラケシスとしては、あまりフィンとふたりきりになりたくはなかった。ふたりきりになってしまった時、彼にどう接したものやら、戸惑わずにはいられないからだ。
「フィン、私のことで心配は無用です。……それなりに心得もありますし」
 ラケシスの言葉はそっけなかった。その言葉に、柔らかな笑顔を浮かべていたフィンの顔がふっと掻き曇る。
 どうしてこんなに意固地な態度をとってしまうのだろう。もっと気の利いた、可愛げのある答えができないものなのか。フィンに対して必要以上によそよそしくふるまってしまう自分自身に、ラケシスは苦々しい思いを抱かずにいられなかった。
「そうでした。ラケシス様は優れた騎士であらせられる……あるいは、私などよりも」
 そう答えるフィンの口調には、どこか自嘲めいたものが感じられた。
「そんなことを言わないで、フィン。私があなたにかなうはずもないでしょう。あなたはレンスターの誇る槍騎士なのだから」
「……私が本当にすぐれた騎士ならば、城を陥とされるような状況を許すはずはなかった……」
 フィンは押し殺したような声で答えた。その瞳を満たしている暗くうつろな色に、ラケシスははっと胸を衝かれた。
「そんな! そんなふうに考えないで。フィン」
 そう答えるラケシスの声は、あえぎに近かった。
 なんてことをしてしまったのだろう。ラケシスは自分のうかつな態度を悔いた。
 彼がどんなに傷ついているか、知らないはずはなかったのに。守るべきものを守りそこね、失ってはならないものを失い、それでもなお生き続けねばならないその苦しみを、知らないわけではなかったのに。
 失われた名誉。生き恥を晒しているという、忸怩たる思い。
 誰も彼を責めはしない。むしろ、王子を守り生き延びたその勇気を称えていた。だが、彼自身の騎士としての矜持が、彼を傷つけずにはおかないのだ。そんな彼の心の動きは、ラケシスにとってなんと理解しやすいものであることか。


 レンスター王子キュアンの死と、それに引き続くようにして起こったトラキアとの戦を、彼女は思い起こす。
 勝てるはずもない戦だった。コノートの裏切りにより、レンスター王はトラキア大河の会戦に敗北、時を経ずして本城たるレンスター城も落城した。ただキュアンの遺児リーフだけがからくも生き残り、ここアルスターに落ち延びている。幼いリーフの守り人であるフィンは、王子やラケシス母娘を守るため、当時レンスター城にいた騎士の中でただひとり、生き残った。生き延びることを強いられたのだ。
 あるいはフィンは死んでしまいたかったのではないかと、ラケシスは時々感じずにはいられない。いや、リーフを守るという使命がなければ、彼はそうしていたのだろう。
 生き延びてしまったことに対する後ろめたさと痛み。遺された使命に対する義務感。それはラケシスにとってもなじみのものであった。ラケシスもまた、同じものを抱える身であったから。
 ラケシスもまたフィンと同じく「遺されてしまった者」だ。
 兄エルトシャンの死、そしてシグルド軍の壊滅。
 あの日、魔法の隕石が降りしきるバーハラで、命を落としても何の不思議もなかったはずだった。だが、絶望の中にあって死を甘受せず、あえて生き延びる道を選んだのは、果たすべき使命がまだ遺されていたからだ。
 『バーハラの悲劇』の真実を語り継ぐこと、子どもたちを守ること、そして失われたノディオンを復興させること。
 遺された使命をまっとうすることによってしか、自分は、いや自分たちは救われない。


「どうしようもなかったのよ。個人の力でどうにかなるようなものではなかったわ。だから、自分を責めないで。お願い……」
 それは、あるいは自分自身に対する言い訳かもしれなかった。
「しかし……」
「それに、あなたはリーフ様にとって……いいえ、私たちにとって、必要な人間なのよ、フィン」
「ラケシス様――」
「あなたが必要なの――」
 フィンを見つめる自分の瞳が潤んでいることに、ラケシスは気づいていた。
(同情なのだろうか。私が彼に抱いている、この気持ちは)
 同情、あるいは同志愛。そんな感情があることは確かだ。
 いまはなきシグルドの元でともに戦い、燃え盛るレンスター城から幼い子どもたちを連れて逃れてきた戦友。
 だが二人の間にある感情がそれだけではないことに、本当は気づいている。
 自分の中に潜んでいる気持ちに、ラケシスは無自覚ではなかった。そしてフィンが自分に向ける視線の中に秘めているものにも、実は気づいていた。だがそれを素直に認めるのは、あまりにも難しかった。
(もし彼が誇り高い「騎士」ではなく、私が男を知らぬ清い「姫君」であったならば、もう少し話は簡単だったのかもしれないけれど)
 それが埒もない仮定であることはよく承知していたし、自分の過去を――過去に選び取った男と、その男との間に生まれた子どもたちを――否定するつもりもさらさらなかった。
 だがそれでも、時として思わずにはいられない。もし彼女が「姫君」ではなく、彼もまた「騎士」でなかったならば、ことはもう少し単純であったのではなかろうかと。相手の過去や立場などを気にかけることなく、おのれの心のみに忠実に生きられる、「自由な」人間であったならば。
(同類なのだ。彼と私は――)
 それは初めからわかっていた。騎士と姫君。建前と立場に縛られ、矜持の前に欲望を切り捨てる、どうしようもない人種。だからこそ、兄を失ったあの時、彼だけは伴侶に選ぶまいと思ったのに。
 兄の死を、彼女は悼むとともに呪わしく思った。兄を死へと追いやったのは、実はシャガール王ではなく、兄自身の「騎士」としての矜持なのだと、ラケシスは心のどこかで悟っていた。
 だから、「騎士」を愛することだけはやめておこうと、彼女は堅く心に誓った。「騎士」は愚かな生き物だから。おのれの真の望みも、女の愛も振り捨てて、「美しく」生きることをもってよしとする、そんな情け知らずの存在なのだから。
 レンスターからやってきた同い年の騎士見習いの少年が、彼女に淡い憧れを抱いていることには気づいていたし、彼女も彼を憎からず思っていた。そう、あの頃、彼と彼女の距離は、ある意味、今以上に近かったのだ。もし兄があのような形で死ななかったら、ラケシスは最初から彼を選んでいたかもしれなかった。
 だが、あの時彼女は別の男を選んだ。「騎士」からはほど遠い、自由な魂を持つ男を。ベオウルフならば、兄が彼女に与えたような悲しみを、再び味わわせることはないだろう。そんな計算が働いていたことを、今なら素直に認めることができる。
 しかし彼はもういない。そして今、彼女の目の前にいるのは――騎士の中の騎士と呼ぶにふさわしい、彼女により近い魂を持つ男。
 自分がフィンを愛さずにはいられないことに、ラケシスは気づいていた。いや、本当は最初から知っていた。そしてフィンもまた、自分を愛していることも。
 だがフィンは決して自分から愛を告げることはないだろう。一度別の男の妻となった女性であり、なおかつ自分より高い身分を持つ女性であるラケシスには、決して。
 「騎士」から「姫君」に向けられた宮廷的な敬意に満ちた愛情ならば、フィンがラケシスに捧げることはあるかもしれない。だが、対等な男と女の間に育まれるような愛をフィンとの間に望むのは、あまりにも難しいのではないか。特に「王子を守る」という使命を課せられた今となっては、彼は恋人よりも主君を選ぶに違いない。たとえ、本当の望みが違うところにあったとしても。


 ならばせめて同志でいよう、と、ラケシスは思う。子どもたちを守り、使命を果たすための同志。それならば苦しむことも、言い訳することもなく、側にいることができるはずだから。
「一緒に守りましょう、子どもたちを。光ある明日のために」
 ラケシスは、フィンに微笑みかけた。
「そうですね……ラケシス様」
 フィンもまた笑顔を浮かべようとして、口の端を少し緩めた。それが無理に作り出した表情であることに、ラケシスは気づいていた。だが、自分が気づいていることを悟らせまいとして、ラケシスはさらに晴れやかに微笑んだ。

《fin》


written by S.Kirihara
last update: 2014/09/12
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