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『秘密』の背景


 『柊館別館』で書き進めている聖戦二次創作は、同一設定に基づいた続き物です。
 一応、読みきり短編として読めるように書いていますが、互いに絡み合いながら進んでいる部分もあるので、通して読んでいただいたほうがわかりやすいかと思います。


 この作品群を書き進める上での大きな軸になっているのは、次の二点です。

 上記二点のうち、今回はまず「ディアドラの真実」に関する事柄について、語ってみたいと思います。


 昔は、「親世代に於いてはシグルドも周囲の人間もディアドラの真実について知らない」という前提のもとに、聖戦を捉えていました。
 ですが、「シグルドがディアドラの出自を知っていた」パターンの会話があることを知って、認識を改めました。
 もし、シグルドやその周囲の人間がディアドラの出自を知っていたならば、彼らはどう考え、どう行動したのでしょう。


 「ロプトの血を引いている」というのは非常に重い秘密であっただろうと、私は捉えています。
 第2章の村での会話によれば、「アグスティやマッキリーみたいな大きな街じゃ、毎年たくさんの人が、魔人狩りという名のもとに火あぶりになって殺されて」いるようです。
 これはアグストリアでの状況ですが、グランベルでもさほど事情は違わなかったのではないかと思います。
 実際、アルヴィスはロプトの血筋であることを隠蔽しとおそうとしてマンフロイと深く関わるようになりました。アルヴィスの行動は、ロプトの血が強い禁忌であったことを考えなければ、正しく解釈できないものだと思います。


 「聖戦の系譜ドラマティカルファイル」という本があります。この本に収められているドラマパートでは、ディアドラがロプトの血族であることを語り手であるノイッシュは非常にあっさりと受け入れているのですが、それが私にはとても違和感がありました。
 ロプトの血を引いていることは、そんなに簡単に受け容れられることではないはずです。もし、シグルドとディアドラが結ばれるよりも前にその真実を知る者がいたとすれば、全力で二人を引き離そうとしたのではないでしょうか。
 こういった観点から書いてみたのが、拙作『秘密』です。


 第2章の冒頭で、シグルドは「ディアドラを妻にむかえた」と明言されています。また、セリスは嫡子として大切に育てられています。
 こういった点から考えて、シグルドとディアドラの間柄は私的な恋人関係ではなく、正式な婚姻関係として公けにされていたのだと思われます。戦時下のことなので、バーハラ宮廷にディアドラをお披露目したりはしていないようではあるのですが。
 いくら戦時下のどさくさとはいえ、公爵家の跡取りが妻を迎えるにあたり、シアルフィの家臣団がその妻の出自等を問題にしなかったとは考えにくいように思います。もっとも、アルヴィスの父母のこともあるので、微妙な部分はありますが。
 精霊の森の村にマイラの子孫が生き残っているかもしれないことは、マーファ西のある村を訪問したときのNPC会話で推測できます。つまり、この村で情報収集をした人物は、ディアドラがロプトの血を引いているかもしれないことに気づく可能性があるのです。
 シグルドの家臣がディアドラの身元を追究し、結果としてロプトの血族であることを知る可能性は十分ありえるのではないかと考えました。


 さらにその上で、ディアドラの出自を知る者は、シグルドと密接な繋がりを持っている人物でなければならないでしょう。秘密を知ってなお、それを世間に公表せず、かつシグルドの許から離反しないという選択を行う人物でなければ、以後のストーリーが成立しなくなるからです。
 そういった点を考え合わせ、知ってしまった人物を「ノイッシュ」にすることにしました。


 なぜ彼でなくてはいけないのか。
 シグルドの直接の家臣には、他にアレクとアーダンがいます。
 あくまで私見に基づく人物評なのですが、この二人の場合だと、その後に繋がるドラマが成立しにくいように思ったのです。


 まず、アーダンの場合ですが、彼ならば苦悩することなくシグルドの選択を支持してしまうように思います。
 会話イベントなどから見るに、アーダンの行動軸は基本的に「私的な思い>公的な義務感」であるように感じます。「騎士としての義務」や「シグルドの妻というものが公的にどう捉えられるか」などにこだわることなく、「シグルド様が相愛の相手と結ばれた」ことを祝福するように思うのです。
 なので、その後の展開に差し支えることはないのですが、それが大きな苦悩に繋がるということもあまりないように思いました。


 では、アレクだとどうなるのか。
 私は、アレクは理性的かつ常識的で、バランス感覚も優れている人物であると捉えています。シグルドがディアドラの出自を知りながらなお妻に迎えるという選択をしたことを知れば、彼の場合、「シグルドを見限る」という選択をしかねない、と考えました。
 ロプトの血族を妻に迎えるという選択をしたシグルドは、公爵家の跡取りでかつティルフィングの後継者である者としては完全に失格です。家臣に対する裏切りであるといっても差し支えないでしょう。そのような主君になおも忠誠を誓えるかといえば、実際問題として、かなり難しいのではないかと思います。
 あえて世間に公表するような真似はしなくとも、黙ってシグルドの許を離れてしまうのは十分ありえることですし、あながち責められるものでもありません。
 そういった点を考え合わせ、「事実を知ってそれを重く捉え、なお離反しない人物はノイッシュしかいない」、と考えました。


 ノイッシュは「騎士であること」「忠誠を貫くこと」を非常に意識し、かつ、シグルドに諌言することもいとわない人物であるように思います。
 序章冒頭の初登場時、彼は次のように言っています。
「バカなことを言わないで下さい。騎士として生まれた以上、戦いで死ぬのはあたりまえ。主君一人を死なせておめおめと生きてはおれません」
 まあ、その後恋愛をしない限り他にほとんどセリフがない人なので、これだけしか情報がないといえばそれまでなのですが。
 ノイッシュは「立場」や「義務」を重んじるとともに、本質的な部分では「理」よりも「情」が勝っている人物であると、私は捉えています。また、シグルドとの間にも、深い精神的な繋がりがあるように感じています。
 そういった人物がディアドラの真実を知ったならば、どう行動するでしょうか。
 かなうことならばディアドラを排除したい、だがかなわないならば事実を隠蔽し、全力でシグルドたちを守るしかない。そして事実を知る者は少ないに越したことはない。アレクにもアーダンにも明かさず、すべて自分で処理しよう。彼ならばそのように動くのではないかと考えました。
 結果として、彼はひとりで秘密を抱え、苦悩することになります。


 うちでのノイッシュは『秘密』における展開が根底にあるので、その後もそれに基づいた行動を取ることになります。
 秘密を守り通すことに骨を折り、もしかしたらセリスが闇に目覚めるのではないかとおそれ、それでもシグルドたちをあくまで守ろうとする。
 そんな彼ですので、本当は「恋愛どころではない」はずなのです。
 ディアドラを守ると誓った瞬間から、彼はおそらく自分自身の幸せは断念しているはずです。妻子を得た後にディアドラの真実が世間に知られることとなったら、自分だけではなく妻子も罪に問われることになりかねません。責任感の強い人だと思うので、そういった点に目をつぶっていられるはずもないでしょう。生涯独身の覚悟を固めていたのではないかと思います。


 でもまあ、そんな覚悟も虚しく、図らずも恋に落ちてしまい、さらに苦悩してしまう……というのが、うちにおけるノイッシュの物語なのです。



written by S.Kirihara
last update: 2015/05/04
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