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サトクリフの読み方ガイド

INDEX / 作品相関図 / ローマンブリテン4部作 / イルカの指輪の継承 / 思わぬ関連性 /


作品相関図

ローマン・ブリテン4部作を中心に、サトクリフのオリジナル作品(邦訳のみ)を年代順に並べ、作品同士の関係を示した「相関図」を作ってみました。
ブリテン史(ないしはローマ史)にほとんどあたっていませんので、いろいろと間違いがあるかと思います。お気づきの点はご指摘ください。

指標となる年代を作品やあとがきの中から読み取ろうとしたのですが、穴があまり埋まらなかった(汗)。
けっこう実在の事件や人物が登場しているので、きちんと調べればかなり正確にわかるはずなのですが……。

***凡例***
ローマン・ブリテン4部作
イルカの指輪継承
正編と続編
言及あり?
関連あり?
年代未確定の作品



<<作品相関図>>
年代 作品群 歴史的事項
BC900頃 太陽の戦士
ケルトの白馬(?)
王のしるし(?)

AD60頃 闇の女王に捧げる歌 ブーディカの反乱(AD60〜61)
AD130年頃 第九軍団のワシ
ケルトとローマの息子(?)
AD4C中葉 辺境のオオカミ キリスト教の容認(AD313) 東西ローマの分裂(AD395)
AD400年頃 銀の枝
ともしびをかかげて ローマ軍、ブリテンから撤退
落日の剣 カムランの戦い(AD542?)
AD600頃 アネイリンの歌

AD900前後 剣の歌 ハラルド美髪王のノルウェー統一(9C末)
AD1000前後 ヴァイキングの誓い
AD1100前後 運命の騎士

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ローマン・ブリテン4部作

 サトクリフの代表作といわれています。ローマ統治時代のブリテン島を舞台とした作品で、その中心を担っているのは、あるローマ軍人の一族です(次項参照)。

 この作品群を読むときは、シリーズ1作目にあたる「第9軍団のワシ」から読むことをお勧めします。歴史上の年代から言ってももっとも古い時代にあたるため、以後の作品を読み進めていきやすいでしょう。また、作品の構成がしっかりしていて、サトクリフの中心テーマが色濃く打ち出されているため、サトクリフの雰囲気をつかむ上でもよい作品なのではないかと思います。

 「銀の枝」は「第九軍団のワシ」の次に書かれた作品で、また、「第九軍団のワシ」と深いつながりを持っています。この作品では、「第九軍団のワシ」でマーカスとエスカが見つけ出してきた「失われたワシ」が、大切な役割を担って再度登場します。もちろん「イルカの指輪」も出てきます。

 「ともしびをかかげて」はローマン・ブリテンの終焉を描いた作品です。ローマ軍がブリテンからの撤退を決定したとき、ローマ軍人アクイラは、じつは自分がローマ人であるだけでなく「ブリテン人」でもあったことに気づき、軍を脱走してブリテンに残ります。この作品はまた、「伝説になる前のアーサー王」を描くものであり、「落日の剣」の前日譚にあたるものとなっています。「落日の剣」を読む前に「ともしびをかかげて」を読み終えておくことを強くお勧めします。

 「辺境のオオカミ」は、扱っている時代そのものは「ともしび〜」などよりもずっと前なのですが、前三作からずいぶん年月を隔てて書かれた作品です。また主人公の境遇もやや異色で、(出世街道からそれた辺境の地方軍団に所属しているとはいうものの)正規軍の軍人さんです。マーカスは退役軍人、フラビウスやジャスティンは地下活動家(?)、アクイラは脱走兵(のちに私兵?)と、ある程度自由に身の振り方を決められる立場にいたのですが、「辺境のオオカミ」のアレクシオスは軍規によって縛られた存在であり、それゆえの悲劇や葛藤を経験することになるのです。

 さて、「ローマン・ブリテン4部作」の読み進め方ですが、歴史上の時間軸に沿って読むよりは、作者の執筆した順にしたがって読んだほうがよさそうです。また「第九軍団のワシ」と「銀の枝」、「ともしびをかかげて」と「落日の剣」(「落日の剣」はローマン・ブリテン4部作でありません)がそれぞれ正続の関係にありますので、順にしたがって続けて読むと、よりいっそう楽しめるのではないかと思います。

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イルカの指輪の継承

 前項で述べたように、ローマン・ブリテン4部作は、あるローマ軍人の一家系を追った作品になっています。「第九軍団のワシ」のマーカス・フラビウス・アクイラは、「銀の枝」のフラビウスや「ともしびをかかげて」のアクイラの先祖にあたるわけです。
 この一族には代々「イルカの印章のついたエメラルドの指輪」が受け継がれており、それが子孫であることを示すひとつの指標ともなっています。なお、この「イルカの一族」は「落日の剣」にも登場しています。イルカの指輪がアクイラからその息子フラビアンへ、そしてさらにその息子へと受け継がれていくのですね。

 指輪の継承はさらに続きます。

 ローマン・ブリテンの記憶も遠ざかった時代に、あのイルカの指輪と思しきものを手にした女性が登場します。「剣の歌」のヒロイン、アンガラドです。全体的な雰囲気としては軍人の家系のアクイラ一族よりも「運命の騎士」のアンクレットを髣髴とさせるような雰囲気を持った黒髪の「魔女」アンガラドですが、彼女もまた、「イルカの一族」に連なる者であったようです。彼女が「イルカの刻まれた、傷んだ緑の石の指輪」を所持しているという描写を読んで、思わずニヤリとされた方も少なくないのではないでしょうか。

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思わぬ関連性

 「アネイリンの歌」には、しばしば「偉大なる王アルトス(アーサー)」への言及が見られます。このアルトスの肖像を、いわゆる「アーサー王」のイメージで処理してしまっても問題ないのかもしれませんが、ここはぜひ「落日の剣」のアルトスのイメージで読んでいきたいところです。

 「落日の剣」の中に、白馬について言及している箇所があります。
白馬はサクソン人の旗印であるが、ブリテンの人間にとっても古くからの尊崇の対象であり、丘の上に白馬の姿が刻まれているのが今も残っている。だから自分(アルトス)は白馬を騎馬とするのだ……というような内容だったように思います(今、手元に本がないものでうろ覚え)。この「白馬」は「ケルトの白馬」を連想させます。というか、モロ、そのもののような気がします。

 「運命の騎士」は中世の騎士の世界を描いた作品ですが、古代から受け継がれている血脈が浮き上がってくるような場面がところどころ盛り込まれています。そういった箇所のひとつに、ランダルが古代の人間が作ったと思しき「石の斧」を手に取り、それが左手用のものであることにふと気づく……というシーンがあります。左手を使わなければならない古代の人といえば、どうしても「太陽の戦士」のドレムが連想されてしまいます。
 ランダルはサクソン人を母に、ブリタニー人を父に、という、いかにもイギリス人な血を受け継いだ存在です。「運命の騎士」は「帰るべき家」ないしは「守るべき土地」が非常に大切な要素となっている作品だと思うのですが、混血児ランダルが古代の血に連なる存在であることを示すことにより、彼が「土地」と結びつくことの必然性を示しているように感じます。そういった意味でも、原題の「Knight's fee(騎士の封土)」は非常に含蓄の深いタイトルなのかもしれない、と思うのです。

 サトクリフの作品は、一見しただけではつながりがなさそうな作品でも、深読みするとかなり緊密な関連性を持っているように感じます。
 ここで見た以外にも、さまざまな関連性が考えられるのではないかとにらんでいますが、さて?

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 サトクリフの作品には、「犬」が非常によく登場し、重要な役割を果たします。犬好きの方には特にお勧めできる作家だと言えるでしょう(笑)。
 特に印象深いのは、「太陽の戦士」のノドジロ、「第九軍団のワシ」のチビ、「運命の騎士」のジョワイユーズetc……といったところでしょうか。ほかにもたくさんのすばらしい犬たちが登場します。

 犬に関しては、別項を立ててみたいです。

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written by S.Kirihara
last update: 2008/04/26
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